伊勢原CB

Yahooブログから引っ越しました、「あの頃の未来」伊勢原CBです、Yブログで知り合った方が訪問の際には、メッセージで貴殿のURL等をご連絡いただけますと幸いです。

    2010年12月

    BGM
     
     
    彼女の幸せ、彼のお気に入り

     「そうなんだ、今度の大会でプロが使う板を作っているところで、休んでい られないんだよ、シェイプは終わっているんだけど、あとは色を塗ってラミ ネート、そして仕上げをして完成なんだよ」
     
     「色を塗るのはスプレーガンでやるんですか」 彼が聞いた
     
     「スプレーガンや、エアブラシでやるんだ、色やデザインはもう出来ている んだ」
     
     「車を塗る要領でやればいいんですか」
     
     「そうだね、だいたいは同じだね、車より薄く塗る所が違うかな」
     
     「俺でも出来るかな、車なら塗れますけど」
     
     彼は大手のディーラーの整備士で、板金の経験も有り、色を塗るくらいなら手伝えるかもしれないと思った。
     
     「何度かボードの修理はやったことが有りますよ、ガラスクロスを貼って、 ラミネートしたり」
     
     「それなら頼もうかな、やってみてもらおうか」
     
     彼女が院長に事情を話し外出許可をもらい、飯塚さんの車を彼が運転して3人で作業場に向かった。
     
     自分が塗るより出来が良いかも知れないと感じた、彼の腕は飯塚が思っていたより確かだった。仕上げのラミネートのやり方を教え、監督はするが作業は任せることにした。
     
     一週間後、出来たボードを彼が病院に見せに来た、そのボードは飯塚を満足させる仕上がりだった。
     
     退院する飯塚を迎えに来たのは彼だった、飯塚は作業場に入って彼が削った板を見て
     
     「良くなってきた、これなら大丈夫」 一言いった。
     
     彼は器用な上に研究熱心で、シェープもこなし完璧ではないが、一人でサーフボードを作る事が出来た、彼が彼女の部屋に住み始めて3ヶ月が経っていた。
     
     気に入った場所で、気に入った仕事をすることに彼は満足していた、波乗り、バイク、彼女、お気に入りに囲まれて幸せだった。彼女も彼との生活がとても気に入っていた。
     
     彼と彼女は時間が合えばCB550で走り、波のある日は波に乗り、雨の日には半島に沢山ある温泉を楽しみ、ときには昔のように二人乗りで、半島の先にある人の少ない澄んだ海へ、泳ぎに出かけたりもした。
     
     早春には、別々の方向に走り出し、気の早い菜の花と桜が咲く川沿いの道で、互いにピースサインをしながら、昔のようにすれ違った。
     
     彼が彼女と半島に暮らし始めて二つ目の夏の暑い日、二人は、海から立ち上がった断崖の上を国道が通る場所の、崖側に突き出して造られた駐車スペースで、両端が下がった様に湾曲した水平線を見ていた、沖には3つの島が、右には白い砂浜の海岸が遠くに見え、飛行機にでも乗っているような気分の景色だ。
     
     彼はヘルメットを被りエンジンをかけた、彼女はタンデムステップに左足を乗せ、彼の肩に手をかけ右足を大きく上げ、彼の後に座った。
     
     遠くに見える白い砂浜に向かって、二人乗りのCB550は走り出した、彼女は彼の背中にしっかりと抱きつき、彼はもう背中の柔らかい感触にたじろぐ事は無かった。
     
     幸せは与えたり与えられたりするものでは無く、気が付くものだと知った彼女は、お気に入りの海で二人きり、彼の作った板で優しい波を楽しむとき、これ以上の幸せはこの世に存在しないだろうと思った。
     
     波乗りの板もオートバイも幸せに気付く為の道具だった。
     
    エンディング
     
     
     この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。
    画像はイメージです。

    BGM
     
    彼がいる幸せ
     
     彼は休みの度にそのポイントに通った、波のある日は彼女が休みなら一緒に波に乗り、波が無ければCB550で走った、2台のCB550で海沿いの国道を走り、山間の県道で半島の先端を一周するのがお気に入りだった。
     
     いつも最後に「さんま寿し」を買って、彼女のアパートで一緒に食べ、次の日の朝早く帰った。
     
     彼が休みの日に最初にする事は、彼女が世話になっているシェーパーに電話をして、波の様子を確認することで、その日は、波は出そうも無いと聞きCB550で出かけて来た、世話になっているお礼に、手土産を持ってシェーパーをたずねると作業場に姿は見えず、机の上に置いた土産に礼の言葉を書いたメモを添えた。
     
     彼女は仕事で病院に来ていた。
     
     彼はCB550で、半島先端に近い弓形に広がる砂浜を見に行って、昼休みには病院に戻り正面玄関で彼女を待った。
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     彼と彼女の仲は病院の誰もが知っていた。
     
     病院から出てくるなり「飯塚さんが怪我をしたと」彼女は言った。
     
     「暫く仕事は無理みたい、怪我と言っても腰を痛めたのよ、前から椎間板 に問題があったのよ」
     
     「そりゃ大変だ」
     
     「たぶん手術をするようだわ、2ヶ月は入院かなぁ」
     
     「そりゃ大変だ」
     
     「注文の板を作らなきゃいけないらしいの、一人でやってたから休めない  のよね」
     
     「そりゃ大変だ」
     
     「プロが大会で使うボードらしいのよ」
     
     「そりゃ大変だ」
     
     「なによ、さっきからそりゃ大変だ、ばっかりじゃない」
     
     悪戯をした時の子供のような笑顔で言った。
     
     彼は彼女と一緒に飯塚さんを見舞いに入った、飯塚さんはべッドに座っていた。
     
     「調子はどうですか」
     
     「こうして大人しくしていれば痛みはすくないんだけどねぇ、動くと苦しい  ね」
     
     「作らなきゃいけない板があるんですって」 彼が聞いた。
     
     
     
     
    つづく
     
     この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。

     
    BGM
     
     
     
     
    彼の気持ち、彼女の心

     「今日はこれから仕事なんだ」
     
     「そうなの、これからなのよ、小潮の時は潮が引くのが朝早いから先に波 乗り、今日はもう帰るのかしら」
     
     「いやまだ物足らないから、南側の海岸に行ってみようと思ってる、波は  無さそうだけど、波が無ければ釣りでもして時間を使うつもりなんだ、せっ かく休みを取って来たんだから、今日はどこかに泊まって明日も波乗りを するつもりなんだ」
     
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     「それじゃあ、今日はこっちに居るのね、仕事が終わったらまた此処へ来 るから、一緒に夕食はどうかしら」
     
     「よろこんで、夕方、此処へ戻ってきます」
     
     話し込んでいる二人に男が言った。
     
     「君達は同じオートバイが好きで、波乗りが好きで、気が合いそうだけど、 彼女はもう仕事に行った方が良さそうだよ、ボードとウェットは仕舞ってお くから」 
     
     「いつもすいません、御願いします」 彼女は550のクラッチを繋いだ。
     
     夕方、彼女は彼も気に入るだろうと、お気に入りの「さんま寿し」を買って待っていた。
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     男の小屋で3人は「さんま寿し」でささやかな夕食をした、彼は「さんま寿し」が気に入った。
     
     「此処はいいところで、此処の海がとても気に入りました」 彼が言った。
     
     「そうでしょう、此処はとても素敵だわ」 彼女が言った。
     
     「気に入ってもらえてうれしいですねぇ、君達はお気に入りが同じなんだ  ね」 男が言った。
     
     男のする「波乗り」の話はとても勉強になり、二人は頷きながら聞き、彼のする「オートバイ」の話は飯塚には新鮮だった。
     
     二人の話を聞いて彼女は、波乗りもオートバイもアドバイスをしたり聞いたりは必要だけど、結局は、自分で何とかしなければ始まらない。
    「人生と同じだ」 そう感じた。
     
     ささやかな夕食の後、彼と彼女は上弦の月が輝く砂浜で波の音を聞いた。
     
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     彼は彼女の顔を見つめるだけで言葉は出てこなかった、彼女は彼の気持ちを知っていた、彼女も同じ気持ちを心に仕舞っていた。
     
     
     
    つづく
     
     この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。
     
    この物語が事実のように感じるのはアナタの妄想です。

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    彼女の550

     男は彼女にしたのと同じにホースで彼に水を掛けてくれた、彼がうな垂れながら着替えている間に、男は彼女と彼のボードを洗いラックに立てかけ、二つのウエットスーツをハンガーに掛け砂を洗い落とした。
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     「君はあの子と知り合いなんですか」 男が聞いた。
     
     「え、まぁ、そうです知り合いです、ただの知り合いです」
     
     「相模ナンバーかぁ、湘南ボーイはどこから来たのかな」
     
     「彼女が前に務めていた街です」
     
     「じゃあ、あの子にとっては私より旧い知り合いですね」
     
     「有難うございま~す」 小屋から出てきた彼女は男にそう言った。
     
     彼女はライダースーツを着て、黄色いヘルメットを右手に持っていた。
     
     彼は、彼女のライダースーツとヘルメットに見覚えがある気がした。
     
     「紹介するわ、この方は飯塚さん、そこでサーフボードを作ってるのよ、さ っき私が使ってたボードもこの人に削ってもらったの、凄く乗り易いのよ、 もう最高、私は車を持っていないからボードやスーツはあそこに置 かせ  てもらっているの、いつもお世話になってるの」
     
     「もう仕事に行く時間ですよ」  男が彼女に言った。
     
     緑色のCB550のエンジンをセルモーターでかけ彼女が言った。
     
     「私ね大型を取ったのよ、それでこれを買ったの」 
     
     「俺のバイクと同じだ、俺もゴンゴーを買ったんだ」
     
     「それじゃあ、アルバイトで550を買ったのね」
     
     「うぅん、バイトだけじゃ足りなくて、親父に半分以上出してもらった、それ  で親父に言われた通り新車を買ったんだ、黒いヤツ、この辺りには何度  もツーリングに来たことがあるんだ」
     
     「えっ、黒い550、まえに向うの海岸で見たことあるわ、その時550のス  タイルが気に入ってこれを買ったのよ、このヘルメットもその時に、あのヘ ルメットは今でも部屋にあるのよ、アナタと同じオートバイに乗るなんて、 そんな事があるのね」
     
     
     
    つづく
     
     この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。

    BGM
     
     
     
     
    駐車場の男

       彼と彼女は砂浜に並んで座り、久し振りの言葉を交わした。
     
     「ここで会うなんて、とても素敵だわ」
     
     「先週バイクで通り掛かってここを見つけたんだ」
     
     「あら、私もオートバイでここを見つけたのよ」
     
     「あのRD250で、ここへ来たんだ」
     
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     「そうあのヤマハで、旅行みたいなものに出たときここへ来たのよ、その   時ここが綺麗で静かで気に入ったのよ、アナタとはあの日以来だから   何年かしら、あの寒い日から」
     
     「三年、正確には二年と五ヵ月」
     
     「同僚に貸していた専門書を返してもらいに行ったとき、アナタに会ったの  よ、あの日は寒かったわ、アナタ、私のことを同僚に聞いていたらしい   わね」 悪戯をした時の子供のような笑顔で言った。
     
     「うん、探した、どう探せばいいか分からないけど、とにかく探した」
     
     「3年かぁ、悔しかったり、悲しかったり、あの頃はいろんな事が有ってね   あの夏の日は今でも覚えているわ、あの日から少しずつ変わったの    よ、私」
     
     彼が車を置いた駐車場から、男が彼女の名前を呼んだ、彼女は立ち上がり男に向かって手を振ってからボードを持って歩き出した。
     
     彼も立ち上がり彼女を追って歩き出した、右手に持つボードが重たく感じた。
     
     駐車場の端にある蛇口に繋がったホースで、男は彼女に水をかけ、彼女はシャワー代わりに髪を洗い、ウエットスーツの首口にホースの先端を入れて、中に水を溜め、男が背中のファスナーを開け彼女はウエットスーツを脱いだ、ウエットスーツの中にはスマートな体に水泳選手が着るのと同じ水着を着ていて、男から渡されたタオルで髪を拭きながら、駐車場の向こう側の小屋に入っていった。
     
     
     
    つづく
     
     この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。

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