伊勢原CB

Yahooブログから引っ越しました、「あの頃の未来」伊勢原CBです、Yブログで知り合った方が訪問の際には、メッセージで貴殿のURL等をご連絡いただけますと幸いです。

    2010年12月

    BGM
     
     
     思い出が騒ぎ出す

     一週間後、彼は白いセダンのルーフにロングボードを積んで、ツーリングのとき見つけたポイントへ向かった、クーペの事故現場に花束や線香が無かったので、安心して通り過ぎた。
     
     海水浴客用の駐車場は有料だがゲートは開いていた、勝手に車を置ても誰も集金に来ない。
     
     近くの万屋に駐車料金を払いに行くように書いた看板が立っていて、払いに行っても万屋に人影は無く、メモに車のナンバーを書いて料金を入れる箱があるだけだった。
     
     道を挟んで駐車場の反対側にある小屋の前に、白と金色の線で縁取られたペナント形の黒いラインが入った、緑色タンクのCB550が停まっていた、此処にも自分と同じバイクに乗る者が居るのが彼は嬉しかった。
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     沖の低気圧からのうねりが入り、引き潮のポイントには膝の高さのメローな波が立っていて、沖のリーフから割れる波の少し先に、波待ちをしているサーファーが一人見えた。
     
     ストレッチをしてウエットスーツに着替え、右足にリーシュを繋げ初めてのポイントを目指して、彼はパドルを始めた、肩や腕がかったるくなる頃ポイントに着いた、ポイントに着くなり良いうねりが入った、板の向きを変えパドルを入れてレギュラーにテイクオフ、軽くアップスンを入れ、浜とポイントの真ん中辺りの波が消える場所まで乗った。
     先に居たサーファーは彼と反対のグーフィーの波に乗った、日に焼けたサーファーは女性だった。
     
     彼と彼女は30mあるリーフの向こうと此方で、うねりの方向を向き波待ちをした、セットが入るたび彼はレギュラーに、彼女はグーフィーにテイクオフを繰り返した。 
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     潮の満ち干に合わせて出る波は長く続かない、30分すると乗り難くなり、その20分後に波は割れなくなった。
     
     彼が浜に戻る彼女に話し掛けた
     
     「波なくなっちゃいましたね、地元の方ですか」
     
     「私はここ以外で波乗りをやったことはないわ」
     
     彼女は彼の声に、彼は彼女の声に聞き覚えがあった、彼女と彼は互いの顔を見つめ、思い出が騒ぎ出した。
     
     こんな偶然が信じられなかった、彼女は彼の心に三年前から住み続ける女性で、あの日から意識せずに過ごした時は無い。
     
     
     
     
    つづく
     
     この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。

    BGM
     
     
    危険な国道

     彼が通り抜けた旧道が国道と合流する交差点は、右側のすぐ先がブラインドの登り右急カーブ、左側はすぐトンネルでいくら確認しても安心することは出来ない嫌なT字路で、何度も国道を走ったことがある彼もT字路の存在を初めて知った。
     T字路の正面は鉄道の石垣で、石垣には擦ったような痕が幾つもありライトの欠片や車の部品の破片が落ちていた。
     
     右側のカーブから現れた車が左側のトンネルに入り、左側からは車が来ないと思われ、交差点から右に発進した、それと同時に左のトンネルからオートバイが現れ、ヘッドライトを点けずに速い速度でトンネルから出てきたオートバイは、CB550の右側を通り過ぎ右急カーブを登って行った。
     
     交差点からすぐの右急カーブを登り切り、次の左カーブを抜けると国道は直線になる、トンネルから現れたオートバイは100mほど先に見え、他には対向車線に観光バスが走ってくるだけだった。
     
     その観光バスの後に、サーキットを走るスリップストリームの真似をして、ボンネットに黒いラインが2本入った黄色いクーペが貼りついていた。
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     彼も、前を行くオートバイのライダーも、左ハンドルのクーペのドライバーも、観光バスで出来た死角に居るお互いが見えていなかった。
     
     5.7L V8エンジンのパワーを自分の力と勘違いしているクーペのドライバーは、観光バスを追い越そうとアクセルペダルを踏みながらセンターラインを右に割った、車体に書いてある文字が読めるほど近付いた観光バスの後から、黄色いクーペがオートバイの正面に出た、彼はフルブレーキで550を止めた、前を行くオートバイは後輪が右に流れ横向きになりながらクーペに跳ね飛ばされた。
     
     オートバイは、クーペのグリルを壊しライダーは、ヘルメットでフロントガラスを割りルーフを転がって、クーペの向こう側に落ちた。
     
     現場付近に公衆電話は無く、彼が、公衆電話を見つけて事故の通報をしたのは10分後だった、それから救急車の到着に40分、意識の無いライダーが病院に収容されたのは、さらに30分後だった。
     
     意識の無いライダーの点滴を交換した看護婦は、患者の顔を見ていた、若いバイク乗りが運ばれてくると、知っている顔で無いことをいつも祈っていた。
     
     
    つづく
     
     この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。

    BGM
     
     
    彼のCB550
     
     彼女が暮らし始めて3回目の春、陽気がいい日曜日、意識の無いライダーを救急車が運んできた。
     
      彼はCB550で大きな峠を越え日本一の山を見て、半島東側の海沿いのコースで帰る日帰りのツーリングに来ていた。
     
     半島の付根から先端まで貫く山間の国道は、観光施設が多く観光バスが沢山走っていて、バスを先頭に数台の車が金魚の糞のように連なる。
     彼は、道幅を使ってごぼう抜きに、対向車を気にしながら強引に、何度も車列を追い越した。

     タンクの下のエンジンは 『4気筒、OHCエンジン……特許申請中のカム軸受加工方式を採用することにより、軽量化と小型化に成功した並列4気筒、OHCの高性能エンジンです。安全な追い越し加速と十分な余裕馬力。加えて4サイクル特有の巾広いトルク特性をフルに引き出す5段ミッションを装備しています。』 メーカーがカタログに書いていた通りで、50cc排気量が多くトルクが上がった550のエンジンは更に頼もしく 『軽くコンパクトな車体は、大型クラスとは思えない取り扱い易さで市街地走行から高速走行まで安定した操縦性を示します』 これもカタログ通りで山間の国道で右に、左に、浅く、深く曲るカーブを軽快にこなした。
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     円を二週回る螺旋状のループ橋を下り、川沿いの道で海岸線を目指した 海岸線に出る信号機のある交差点は嫌い、東側にある一時停止のT字路に出た。

     左にウィンカーを出し一時停止をしたとき、右から観光バスが来た。
     
     「行けるな」
     
     アクセルを煽り高い回転でクラッチをミートさせようとした時、観光バスはパッシングと威嚇のホーンを鳴らし彼の550の前を左へ通り過ぎた。 
     
     海岸線に出た彼の550は観光バスの後ろを走ることになった、黄色いセンターラインが続く道、黒い排気ガス、対向車は少ないが見渡せる直線が少ない道で無理な追い越しも出来ず、彼は明らかにイライラしていた、観光バスの尻を見ることに飽きた彼は、、ウィンカーを右に出し、ギヤを一段落としアクセルを一捻り煽った。
     
     対向車をやり過ごし、地図の上で知っていた海沿いの旧道へと曲った、初めて通る道の向こう側に、入り江のような海で波乗りをしているのが見えた、彼は黒いCB550を停め波乗りを暫く見ていた。 
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     その海で波乗りが出来るのを初めて知った。
     
     
     
    つづく
     
     この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。

    BGM
     
     
     
     菜の花の道

     お気に入りの海岸から、岬を二つ過ぎた街の病院に仕事を見つけ、その街のアパートに引越したのは、山の紅葉がすっかり赤くなる頃だった、引越してすぐウエットスーツを買い、借りた板で波乗りを始めた。
     
     テイクオフから横に行ける様になったとき、自分用の板を注文した、ファンボードと呼ばれるタイプの板で、彼女の技量、癖をよく知る真面目なシェーパーが作った板はとても乗りやすかった、テイクオフが楽に出来、自分が
    上達したかのようだった。
     
     休みの日は、波が無ければオートバイによく乗った、信号の殆ど無い海岸沿いの道はオートバイで走るのにピッタリで、半島の先端の波を見に行ったり、半島中心の山岳地帯を貫くワインディングや、螺旋状のループ橋
    走る場所はいくらでも有り飽きなかった。
     
     最初に勤めた病院の医者との恋に傷つき、次に勤めた街でも愛に裏切られ、嫌気が差している頃オートバイと出合った、風を感じる乗り物「オートバイ」に乗るため免許を取り、新車の2サイクル2気筒のヤマハを手に入れ、新しい地図を広げ走り出した、そして、その海に出合った、お気に入りの海岸の近くに暮らしてから、彼女の心を波乗りとオートバイが癒してくれた。
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     彼は、高校が自由登校になった暖かい日、仲間とバイクで半島東側を海沿いに走り、半島の先端を目指していた、先端に近い河に沿って桜や菜の花が咲いている県道で、2サイクル2気筒のヤマハが対向車線を走って来た、グループの先頭が、すれ違うヤマハにピースサインを贈った、黄色いヘルメットを被ったヤマハのライダーもピースサインを返した、一番後ろを黒のCB550で走っていた彼も、左手でピースサインをしてヤマハをバックミラーに映した。
     
     彼女が半島の道を充分に楽しみアパートへ帰るとき、白い砂浜の端にある神社前の駐車場に、菜の花の道でピースサインをしたグループのバイクが止まっていた、KAWASAKI、YAMAHA、HONDA、3気筒、2気筒、4気筒、一番手前に置いてある黒い4気筒は陽を浴びて濃いブルーにも見えた、砂浜に大きな声ではしゃぐ少年達が見えた。
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     春の訪れが早い半島は水仙、桜、菜の花などが早い時期から咲き、休日などは海岸沿いの国道が渋滞することもあるが、平日は車が少なく太陽が有る時間はバイクで走っても寒くない、暑い夏より気持ちがいい。
     
     半島に有る病院にはツーリングに来たバイク乗りが、怪我をして運びこまれる事がよくあった。
     
     
    つづく
     
     この物語は妄想です、実在の人物、団体などには一切関係ありません。
    画像はイメージです。

     
     
     今年もこれの時期、曇ってるから無理かなぁ、明日に期待かな。
     
     
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