この物語は妄想です
 
 
  正面に大島が見える国道の駐車スペースに、赤いオートバイが止まっていた。
 深い緑色のタンクが着いたホンダの四気筒に乗る沖野はその駐車スペースに入った、沖野はこの半島にオートバイで来るといつもその駐車スペースで一休みしていた。
 
 赤いオートバイのライダーの姿はどこにも無かった、赤いオートバイだけがオーナーの帰りを待つかのようにサイドスタンドに車重を預けて佇んでいた。
 
 沖野はジャケットの右ポケットからスペアミントのチューインガムを取り出し、丁寧に包み紙をはがしガムを口の中に入れた、堤防の上に足を海に投げ出すように腰掛、波の音を聞きながらガムの味がなくなるまで海を見ていた、包み紙に口から出したガムを包みジャケットの左ポケットに入れ、バイクの所へ歩きヘルメットを被った、グラブをはめイグニッションキーをONに回し、セルモーターのスイッチを押すとエンジンがアイドリングを始めた。
 
 右方向から何も走ってこないのを確認すると、アクセルを一気に煽り国道へと出て行った、六十キロ先の白い海岸が今日の目的地だった。
 
 テレビの天気予報ではにわか雨があると言っていたが、沖野はそんなことは気にせずオートバイで出かけてきた、レインギヤはシートに括り付けてあったが、南に行くほど空が明るくなり、太陽の光が勢いを増していた。
 
 目的と言っても目当てがある訳でもなく、ただ何となくその海岸が見たくなりガレージからオートバイを引っ張り出し走り出した。
 
 六つの温泉街を通り越し、沖野は断崖の上にある展望台へ入った、エンジンを止めヘルメットを脱ぐと、メカノイズが特徴のエンジン音を響かせながら、赤いオートバイが入って来た、赤いオートバイは沖野がいる場所の反対側に停まった。
 
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つづく