今の時間から半島の先端に行くなら、今日は泊まりかも知れないと沖野は考えた、この先の何件か知っている民宿を思い出しながら沖野は赤いヘルメットを追い掛けた。
 
 沖野の知っている民宿を通り過ぎ、半島の先端も通り過ぎ、半島の西側の道を赤いオートバイは、癖のあるカーブも巧みに走り抜ける、夕焼けの紅い光がヘルメットのシールドに反射して、前が見難い時間になった。
 
 対向車は無く道路の上に見えるものは、沖野の4気筒と赤いオートバイだけだった、赤いヘルメットを被るライダーは、沖野が後ろから付いている事に気が付いている筈だ。
 
 トンネルの直線で沖野は一気に車間距離を詰めた、四気筒のバイクのヘッドライトが、赤いオートバイの後輪を照らした、ライダーが着けているコスメの香りも感じる事ができた。
 
 トンネルの出口は下りの左急カーブで、それを知らせる標識がトンネルの入口と出口に有った。
 
 何度も走った事の有る、トンネル先の急カーブに合わせて沖野は減速した、赤いヘルメットとの距離が開いた、赤いオートバイは減速が遅れた。
 
 赤いオートバイはトンネルの出口で一気に減速して、左急カーブを当たり前のように抜けて行った、沖野は自分の乗る旧いオートバイと、赤いオートバイのブレーキの性能の違いを知った。
 
 沖野の行為を無視するように、赤いオートバイは走り方を変えなかった。
 
 沖野は赤いオートバイの右側に並んだ。
 
 赤いヘルメットのシールドが開き、沖野に笑顔を投げてきた。
 
 沖野に向かい左手を軽く二回振り、首をチョット傾げ、シフトダウンをしたかと思うと、フルスロットルで赤いオートバイは走り去った。
 
 沖野の四気筒は予備の燃料も使いきり、アクセルを開けても加速出来なかった。
 
 シールドをあげた沖野の顔に、潮の匂いと蜜柑の香りの風が当たった。
 
 
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遠くに赤いオートバイの排気音が聞こえた。
 
 
 
妄想はここまで、最終回です。