トンネルを出てからレザーパンツの裾がしっかり濡れるまで走った場所に、洒落たレストランが木立の中にあった、傘のように枝を広げた紅葉の下に、先にトンネルを出て行ったオートバイが濡れていた。
 
 彼はサイドスタンドの下にちょうど石が入るようにオートバイを停め、ヘルメットを被ったままレストランの入口へ歩いた、ドアを開ける前にヘルメットを外し、濡れたジャケットのジッパーを開けレストランに入った。
 
 ランチタイムには少し遅い時間だがレストランは繁盛していた、ウェイターが中ほどの席へと彼を案内した。
 
 どの席もカップルばかりだった、化粧の濃い若い女性を連れた初老の紳士、女性の年齢が上に見える二人、どちらもそれぞれに家庭がありそうな二人、そしてヘルメットを隣のイスに置き、一人で座っている女性がいた。
 
 彼は窓の外を眺めていた、雨は強くなっていた、オートバイの排気音が近付いてきた、雨の中を走る排気音にしては大きく早い回転数だった、濡れて光ったレザージャケットのライダーは右にウィンカーを点滅させ、レストランの駐車場に入った、傘のように枝を広げた紅葉の下にあるオートバイに並べて停めた。ヘルメットの隣に座る女性は幸せな笑顔をした。
 
 食事を終えたカップル達が出て行き、紅葉の下のオートバイは連ねて走り去り、レストランの客は彼一人になった。
 
 彼はトイレから出た時、レジスターの横に懐かしいものを見つけた。
 
 「これは今でも使えるの」 ウェイターに訊いた。
 
 「使えますよ、当りはしませんけどね」
 
 彼は自分の星座が書いてある投入口に百円玉を入れた、レバーを動かすと灰皿の下から小さく細く巻かれた薄い紙が出てきた、末吉と書かれたおみくじには「待人来ず」と書いてあった。