大学を卒業した風間岳夫は大手の会社に就職し、バイクに乗る時間はなくなった、森泉敏彦は相変わらず休みの日はオートバイだった、まだ学生の青井那美は念願の大型免許をとり、風間岳夫の四気筒に乗っていた。
 
 森泉敏彦と青井那美は一度、足柄峠で一緒になった。敏彦がファインダーの中に富士山とオートバイを入れ、シャッターを押した時カメラとオートバイの間を一台のオートバイが走りぬけた、エンジン音とアクセルワークから風間岳夫だと敏彦は思った、少し離れて止まったオートバイは風間岳夫の四気筒だった、しかしシートの上には青井那美が居た、このとき岳夫のバイクに那美が乗っていることを知った。
 
「偶然ですね、今日は森泉さんお休みの日なんだ」
 
「だいぶ走り込んでいるね、そのオートバイにふさわしいアクセルワークだ、なかなか良い」
 
「風間さんとはいつもこんな風に、どこかで逢っていたのかしら」
 
「岳夫とは感性が一緒だから、走りたい場所がだいたい分かるんだよ、その日の気分が同じなのかな」
 
「その日の気分が同じかぁ、約束なしでどこかで逢えるなんて凄いな」
 
「いつも逢えるわけじゃないし、逢おうと思っているわけでもない、偶然が強いんだな」
 
「今日は富士山を見たい気分なのかな、私もそんな気分でここへ来たら、偶然でした」
 
「確かに今日はそんな気分」
 
「このオートバイは明日で車検が切れちゃうの、今日はお天気が良かったから走れて良かったわ、これから三国峠を走って、道志を通って帰るの」
 
「今日は気分が合ってる、俺が行こうと思うコースと同じだ」
 
「それじゃあ、ご一緒してもらえるのかしら」
 
「断る理由はない、喜んで」
 
 前を行く那美のラインは風間岳夫と同じだった、ギヤの選択、アクセルワークも同じに見えた。バイクが同じだとライダーが変わっても、走り方は同じになるものなんだと森泉敏彦は考えながら道志みちを走った。