伊勢原CB

Yahooブログから引っ越しました、「あの頃の未来」伊勢原CBです、Yブログで知り合った方が訪問の際には、メッセージで貴殿のURL等をご連絡いただけますと幸いです。

    2010年12月

     この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。
     
     
     七里ヶ浜を過ぎる時、対向車のフロントガラスが濡れているのに気が付いた、海の上には陽が差していた。
     
     小動で大粒がタコメーターの縁で弾け、江ノ島入口の赤信号でバイクもろ共ズブ濡れになり、鵠沼の歩道橋の下で、天気雨が過ぎるのを待った。
     
     二人を、近くのサーフショップの中から日に焼けた体格の良い男が見ていた、男は二人を手招きした。
     
     「コーヒーでもどうだい」
     
     そう言って二人を呼び、ズブ濡れの二人にインスタントコーヒーを、ステンレスのマグカップに入れてくれた。
     
     「濡れてるから悪いわ」
     
     濡れた白いブラウスが張り付いて敏子の体のラインが良く分かった、スマートとはいえないが相手に優し女性と思わせる、見ていて気持ちの良い容だ。ブラウスの下にはHanes のTシャツを着て、スリムなブルージーンズに赤いコンバースを履いていた。
     
     「うちに来るやつはみんなびしょ濡れだから、気にしなくて平気平気」
     
     ショップのオーナーは敏子にバスタオルを渡した。
     
     康之は、素足に紺色のデッキシューズ、スリムなホワイトジーンズ、BVDのTシャツ、ブルーのウインドブレーカーを着て、髪の毛以外はびしょ濡れだった。
     
     「こんな板に乗ってるんだ、カッコ良かったわね、さっきの人達」
     
     そう言いながらショートボードを見ている敏子にオーナーは
     
     「何処で見たの?」 と聞いた。
     
     返事に困っている敏子の変わりに
     
     「稲村です」 と康之が答えた。
     
     「稲村が上がったのは久し振りだからね、今日はうちのプロも入ってるよ、このマークの板がいなかった」
     
     オーナーが指差した写真には、マークが良く見えるようにボードを差し出す日に焼けた男が映っていた、康之が茅ヶ崎で友だちの板を借りて波乗りをやっているとき、そのマークはよく目にした、その板がこのショップのオリジナルだと始めて知った。
     
     「あの単車で来たの」
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     オーナーは歩道橋の下に止めてある、銀色のタンクの下に4気筒350cc、左右に2本づつマフラーがあるバイクを指差した。
     
     「ハイそうです」
     
     「じゃあ、ライダーだ、サーファーと一緒だ、乗るのが板かバイクかの違いはあるけどな」
     
     オーナーはカセットデッキのプレイボタンを押した、DIATONEのスピーカーから哀愁のあるギターのアルペジオに続いてドン・ヘンリーのハスキーな声が流れてきた。
         
           ♪ On a dark desert high way, Coll wind in my hair......
     
     
     
     
    つづく
     
     

     この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。
     
      冷やし中華を食べ終って、やる事も無くテレビを見ているとき、夜勤明けの敏子は眠そうに見えたが、何かを考えている様にも見えた。
     
     思い出したかのように康之に向かって言った。
     
     「オートバイってもっと涼しいのかと思った、太陽がもろだから暑いのね」
     
     「そうそう、太陽がもろ襲いかかるから」
     
     「信号待ちは、地獄だったは」
     
     「夕方は気持ちがいいよ、太陽がいないから」
     
     「それじゃあ夕方になるまで時間を潰さなくちゃいけないはね」
     
     「大仏は近いの?」
     
     「直ぐそこ、バイクで10分かな」
     
     大仏を見たいと敏子が言うので二人はバイクで走り出した。
     
     大仏の駐車場は修学旅行の観光バスで込んでいた。
     
     「バイクはこっち、こっち、ここに置いて」
     
     駐車場の係員が手招きしていた、言われるままにバイクを置くと
     
     「バイクは300円ね」 と係員は言った。
     
     シートを開けホルダーにヘルメットを掛けている間に駐車料金は敏子が払い、二人は歩いて大仏を見に行った。
     
     拝観料を敏子が払い二人は大仏の下まで歩いた、真夏の太陽に照らされた大仏から陽炎がたっていた。
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     「暑いのに、大仏様も大変ね」
     
     悪戯をした時の子供のような笑顔で敏子は言った。
     
     「昔は奈良の大仏みたいに、大仏殿の中にいたらしいよ」
     
     「そうなの、よく知ってるわね」
     
     「さっきガイドが話しているのを聞いたから」
     
     「そーいうことか」
     
     次に長谷寺へ行った、木刀やちょんまげの鬘、町娘風の着物、祭と描いた法被などを売っている土産物屋は外人で賑わっていた、浴衣を羽織って写真を撮っている者もいた。
     
     大仏からは海岸線に下り、稲村ヶ崎で青いRD250の隣に350を止め波乗りを見た。
     
     台風のうねりが形よくブレイクしているポイントは上級者達のセッションが始まっていた、陸には沢山のカメラが望遠レンズを構えている、サーフィン雑誌のプロカメラマンもいる様だ、波乗りのプロが何人か入っていて、波に乗るたびに双眼鏡を持った男が名前を呼んでいた。
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    写真提供、(株)スターボード   酒井いちろう様
    http://starb.cool.ne.jp/
     
     次から次と寄せるうねりが、沖のリーフで持ち上がり一気に立ち上がる、そのうねりにタイミングを合わせサーファー達はパドルを入れ、板が滑り始める瞬間トップの崩れ際からテイクオフをする、その高さは二階の窓から地面を見るのと同じくらいだ。一気にボトムへ向かいスピードに乗せトップに向けターン
    トップからまたボトムへ波のリズムに合わせターンを繰り返す、カットバックを入れながら波の斜面を自由に軽快に。
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    写真提供、(株)スターボード   酒井いちろう様
    http://starb.cool.ne.jp/

     岸際までライディングしたサーファーがまた沖へと戻る動作も、それが上級者なら見ていて気持ちが良いものだ、正面で崩れ白い力の塊となった波の下へドルフィンスルーを決め、いとも簡単にやり過ごす、その繰り返しでわけなく沖へと戻ることの凄さは、波の力を経験したものにしか解らない。

     
    つづく

    この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。
     
     水曜日、康之は約束の時間より随分前に借りたバイクで待ち合わせの場所に居た、右のバックミラーに新しい白いフルフェイス、左のミラーにはキズのあるブルーに赤いラインの入ったフルフェイスが掛かっていた、敏子は約束通り長袖のブラウスを持って現れた。
     
     「今日も暑いはねぇ、この暑いのに長袖を着るの」
      
     「バイクは危ないから薄くても長袖が必要なんだ」
     
     康之は自分の右腕を敏子に見せた。
     
     「そうね怪我はいやだわ」
     
     悪戯をした時の子供のような笑顔で敏子は言った。
     
     銀色のCB350は真夏の陽射しの中を、二人を乗せて江ノ島目指して走り出した。
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     「思ったより暑いのね、後ろだからかな」
     
     敏子は白いフルフェイスを脱ぎながらそう言った。
     
     真夏の陽射しが照りつける江ノ島のヨットハーバーにバイクを止めて、康之はヘルメットを被ったまま海を眺めていた。
     
     「夏にバイクはむかないんだ、特にカンカン照りの日はね
     
     そう言うとヘルメットを脱いだ。
     
     普段はあまり波が無い東浜にもその日はうねりが入っていた、稲村ヶ崎に大きな波が立ち、波乗り達が次から次にテイクオフするのが江ノ島のヨットハーバーからも見えた。
     
     「ビッグウェンズディか」
     
     康之は東浜から続く鎌倉の海岸線の波乗りたちを見ていた。
     
     「お腹がすいたわ、何か食べましょうよ」
     
     敏子の言葉に首を立てに動かし、平日で空いている土産物屋が有る方向に歩き出した、、ラーメン、おでん、カツ丼、天丼、刺身定食、サザエのつぼ焼き、焼きハマグリ、いくつかの食堂を見て歩いた。
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     色の褪せたサンプルを見ながら、まだ小さいころ父親と一緒にここへ来た時そのままの物だろうかと康之は思った。
     その時は初詣に鶴ヶ丘八幡宮へ、父親のバイクの後ろに乗ってやって来て、その帰りに江ノ島でおでんを食べた。
     
     「冷やし中華がいいな、康之君はなんにする、私は冷やし中華に決めた」
     
     「俺もそれでいいや」
     
     「ここにしましょう」
     
     二人は 「冷やし中華あります」 と赤のマジックで書いた黄色い紙が張ってある、土産物屋がやっている食堂に入った。

     

      この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。
     
     明日退院という日に敏子がやって来た、もう腕に包帯は無くガーゼをテープで止めているだけだっだ、ガーゼを変えながら
     
     「もうオートバイには乗らないの」 と聞いた。
     
     「また乗りたいけど、壊れたから乗るバイクが無いんだ」
     
     「あら残念ね、オートバイが無いんじゃ乗れないはね」
     
     「そのうちバイトで貯めてから買うつもりなんだ、もう少し大きいやつを」
     
     「大きいやつ、それじゃあ二人乗りできるの」

     「そりゃ出来るさ」
     
     「それじゃあ買ったら乗せてくれるかしら」
     
     「バイクに乗りたいんだ、買ったら乗せてあげるよ」
     
     「うれしいは、その時はお願いね」
     
     ガーゼを交換して、敏子は部屋を出て行った。
     
     一週間後、康之は松葉杖を突きながら病院へ来た、診察をして二週間後にギブスを外す事になった、その日の診察室には敏子はいなかった。
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     梅雨が明けた暑い日、康之が乗るCB550は赤信号に止められていた、交差点の向うに敏子の姿を見つけホーンを短く二回鳴らしたが、拍子抜けしたホーンの音は敏子に届かなかった、信号が青に変わると向うをむいて歩いて行く敏子を追い越してCB550を止めた。
     
     「あらっ、久し振り、もうオートバイを買ったの?」
     
     「これは友だちのなんだ、親に見つかったら大変だけどね」
     
     「な~んだ、それじゃまだ乗せてもらえないのね」
     
     「借りればバイクはいくらでも有るからいつでも乗せることは出来るよ」
     
     「それじゃあ今度の水曜日は?、もう夏休みでしょ、私も休みなのどうかしら」
     
      敏子の思いがけない言葉が康之は嬉しかった。
     
     「いいよ、バイクは借りるから、水曜日は大丈夫」
     
     待ち合わせの約束をしてその日は分かれ、その足で水曜日に借りられるバイクを探した。

     この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。
     
      病院の院長は康之の父親の知り合いで康之を良く知っていた。
     
     「左足は駄目だな、骨にヒビが入ってる、腫れが引くまでは入院だな」
     院長は2週間位は入院が必要だと言った。
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     直ぐに両親がやって来た、「バイクはもう駄目だ」 父親が言った。
     
     母親は、「もう絶対駄目だからね」 と言いながら涙を流した。
     
     右の腕もひどく擦り剥いていて、その処置をしてくれたのが敏子だった。
     
    「痛いでしょう、オートバイでやったんだって、消毒するから動かさないで、痛いわよ~」
     
     悪戯をした時の子供のような笑顔で敏子は言った、康之は痛みを堪えながらなぜか痛みが和らぐような気がして敏子の顔を見ていた。
     
     次の日の夕方父親がやって来て、また「バイクは駄目だ」と言った
     
     「フロントホークが曲って、フレームもいっている様だ、もう古いから諦める   か」
     
     そんなことをブツブツ言っていた、康之が壊したバイクは父親が知り合いのバイク屋から探してきた中古車だった。
     
     「いつかはやるだろうと思っていた、これも良い経験だ次に繋げればそれで 良いんだ、母さんがうるさいから暫くバイクは止めておけ」
     
     そう言うと父親は帰った。
     
     次の朝、包帯を交換に来たのは敏子だった。
     
     「痛いでしょう、酷く剥けてたから」
     
     悪戯をした時の子供のような笑顔で敏子は言った。康之の包帯を変えると次の患者のところに行って
     
     「痛いわよ~」と言っていた。
     
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