そのまま二台は並んで走り、次の赤信号で止まった。
「暑いわ、このまま走りましょう」
「それじゃあこのままご案内します」
西田佳子は汗を掻いていた、赤信号で止まっている間も、ペットボトルのエビアンを何度も飲んでいた。
赤いオートバイはライダーに当たる風が少なく、ライダーの疲労軽減に役立つポジションだが、速度の出ない峠道は裏腹に暑いらしい。
沖野が乗る旧いオートバイは、体全体に風を受け、夏場は最高のポジションだが高速は疲れる。
吉田に入る手前を左に曲り、有料道路の側道を走り、日の射さない直線の道を登り、五合目まで行く有料道路に平行して走る、アスファルト舗装された林道に入った。林道は、カラマツの植林帯を走り、幅は少ないが良いワインディングだった。
有料道路を潜り、次の交差点を左に行くと、深い森の中を直線に八百メートル続く、軽い左カーブの先はまた長い直線だ、針葉樹が香る空気は心地良かった、速度を上げて二台のオートバイは走り抜けた。
木立に阻まれた日光が、木の葉の隙を狙って射しこみ、深い森に揺れていた、黄色や白の小さな花が群生していた。
暫く走ると辺りが明るくなり空気が変った、青木ヶ原樹海上部の高台だ、明るくなった左カーブの先は、樹木が無く、朝霧高原を見下ろす景色の良いところだった。
景色の良い場所に沖野はバイクを停めた、西田佳子はヘルメットのシールドを開け、いきなり開けた景色に見入っていた。

つづく