ソフトクリームは恋の味ー最終回
義昭はバイク屋でヘルメットを買い、箱ごとシートに縛り付けた、白糸の滝には四時に着いた。
「今日はやっぱりバニラがいいな」
「ホントに来てくれたのね、何だかドキドキするわ」少女がソフトクリームを差し出しながら言った。
「約束だからね、ヘルメットも持って来たよ」
「本当にオートバイに乗せてくれるのね」
「バイトが終わるまで待ってるよ、駐車場にバイクは置いてあるから、そこで待ってる」
繁盛時を過ぎ賑わいの消えた観光地の売店は店じまいの準備を始めていた、ゴミを片付ける年配の女性、売れ残りの商品を片付ける若いアルバイト、やがてそれぞれの店は扉を閉めた。
CB250の脇で待ってる義昭に向かって少女が歩いてきた。
「このヘルメットなんだけど」
「少し大きいみたい」少女はヘルメットを被って言った。
「大きかったか、サイズが分からなかったから」
「でも、大丈夫よこれで」
「家はここから近いの」
「家は富士宮なのバスで通ってるの」
「そうか帰りは送るよ、少し走ろう」
「嬉しいわオートバイは初めてなの、少し怖いな」
少女を後ろに乗せ義昭は走り出した、CB250に二人乗りで朝霧高原を走り、幸せな夕暮れ時を過ごした。
夏休みが終わり二人は文通を始めた、義昭は月曜に手紙を出し、少女は木曜日にポストに入れた。
日曜にはCB250で富士宮へ義昭は走った、冬の寒い日には裾野から富士宮へ入った。
高校を卒業して、義昭が彼女を迎えに行く乗り物はクーペになり、CB250は物置きの中だった。
三十五年の月日が過ぎ、ソフトクリームを作っていた少女も今は三人の娘のお母さんだ。
そして、義昭がエンジンをかけたオートバイの音を聞きながら夕飯を作っている。
CB250の排気音の中に夕焼けの朝霧高原が浮かんだ、二人乗りで走ったあの夏が。
終わり