古いカントリーが流れる作業場で、蛍光灯の光の中のオートバイをまた弄っている、最近夜になると此処
へ来て、498CCのオートバイを弄るのが男の日課になっていた。
「何で、こんなトコがへこむんだよ」
そう言って、リヤフェンダーを見ている、それは、テールライトを取り付ける為の金具の下が、何かに押
された様にへこんでいた。

リヤフェンダーを外しにかかると、ハーネスに、使われていない端子が有る事に気がついた。
「ん、アースだ」
緑色の配線に付いた端子は、3本の配線を繋ぐことの出来る、オートバイでは馴染のある形をしている
方向指示器からの配線が足りなかった。
オートバイは車体に、バッテリーのマイナス端子からの、電気が流れるようにしてあって、車体に取り付
けられている部品には、アースはいらない、しかし、方向指示器やライトなどは、振動から守る為、ゴム
で作られた部品が、車体との間に入っていて、それが流れてこない。
しかし、このバイクは、方向指示器は点滅する。
「変だな」
右の方向指示器を外すと直に訳が分かった、取り付けボルトと、方向指示器の間に有るはずの、マウント
ラバーが入っていない、8mmカラーも無く、おまけに、付いていた平座金はリヤサスペンション用の物だ
った。
「まいったな、やってくれるよ」
テールライトユニットを、ブラケットに取り付けるボルトの、ゴムパッキンも入っていないのが見えた。
ボルトを外すと、中に入っていたのは、エアークリーナーBOXに使うカラーだった。
「道理で、ガタガタな訳だ」
フェンダーのへこみを、ゴムハンマーで叩き出し、5mmの厚さのゴム板から、無くなってしまったゴムの
部品は作り、8mmカラーは、昔弄った、ホンダの250ccから外した物を使い、リヤフェンダーを組み
上げた、アースの為の配線も取り付け、方向指示器が作動するのを、確認した。
チェンカバーに妙な傷が付いている、ナイフか何かで削った様だ、タイヤがすれた痕も有る。

後輪に4.00サイズのタイヤが付いていた、それはナナハンの様で頼もしく見えた、ひび割れているそ
のタイヤを交換するときは、またこのサイズにしようと思っていた、しかし、チェンカバーの傷を見て少
し細いものにしようと考えた。
「3.75がいいや」
でもその考えは実現しない、旧車に似合うパターンのK87の手に入るサイズは、4.00と3.50
だけだ。
「昔は3.75って有ったのに、しょうがねー、当たっちまーから3.50にするか」
「ノーマルは3.50だしな、ま、いいや」
「ま、いいや」と言うのが、このオートバイを弄り始めてからの口癖だ。
乱雑に物が置いてある作業台の上の泡盛を、お気に入りの琉球グラスに注ぎ、舐めるようにストレートで
飲みながら、オートバイを見ている。

島ラッキョウか豆腐ようでも有ればいいのに、そんな事を考えながら、古いカントリーを聞いていると
外で新聞配達のカブの音が聞こえた。
「もうこんな時間か」
「今度はタイヤを注文だ」
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