この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。
 
 水曜日、康之は約束の時間より随分前に借りたバイクで待ち合わせの場所に居た、右のバックミラーに新しい白いフルフェイス、左のミラーにはキズのあるブルーに赤いラインの入ったフルフェイスが掛かっていた、敏子は約束通り長袖のブラウスを持って現れた。
 
 「今日も暑いはねぇ、この暑いのに長袖を着るの」
  
 「バイクは危ないから薄くても長袖が必要なんだ」
 
 康之は自分の右腕を敏子に見せた。
 
 「そうね怪我はいやだわ」
 
 悪戯をした時の子供のような笑顔で敏子は言った。
 
 銀色のCB350は真夏の陽射しの中を、二人を乗せて江ノ島目指して走り出した。
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 「思ったより暑いのね、後ろだからかな」
 
 敏子は白いフルフェイスを脱ぎながらそう言った。
 
 真夏の陽射しが照りつける江ノ島のヨットハーバーにバイクを止めて、康之はヘルメットを被ったまま海を眺めていた。
 
 「夏にバイクはむかないんだ、特にカンカン照りの日はね
 
 そう言うとヘルメットを脱いだ。
 
 普段はあまり波が無い東浜にもその日はうねりが入っていた、稲村ヶ崎に大きな波が立ち、波乗り達が次から次にテイクオフするのが江ノ島のヨットハーバーからも見えた。
 
 「ビッグウェンズディか」
 
 康之は東浜から続く鎌倉の海岸線の波乗りたちを見ていた。
 
 「お腹がすいたわ、何か食べましょうよ」
 
 敏子の言葉に首を立てに動かし、平日で空いている土産物屋が有る方向に歩き出した、、ラーメン、おでん、カツ丼、天丼、刺身定食、サザエのつぼ焼き、焼きハマグリ、いくつかの食堂を見て歩いた。
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 色の褪せたサンプルを見ながら、まだ小さいころ父親と一緒にここへ来た時そのままの物だろうかと康之は思った。
 その時は初詣に鶴ヶ丘八幡宮へ、父親のバイクの後ろに乗ってやって来て、その帰りに江ノ島でおでんを食べた。
 
 「冷やし中華がいいな、康之君はなんにする、私は冷やし中華に決めた」
 
 「俺もそれでいいや」
 
 「ここにしましょう」
 
 二人は 「冷やし中華あります」 と赤のマジックで書いた黄色い紙が張ってある、土産物屋がやっている食堂に入った。