この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。
 
 
 七里ヶ浜を過ぎる時、対向車のフロントガラスが濡れているのに気が付いた、海の上には陽が差していた。
 
 小動で大粒がタコメーターの縁で弾け、江ノ島入口の赤信号でバイクもろ共ズブ濡れになり、鵠沼の歩道橋の下で、天気雨が過ぎるのを待った。
 
 二人を、近くのサーフショップの中から日に焼けた体格の良い男が見ていた、男は二人を手招きした。
 
 「コーヒーでもどうだい」
 
 そう言って二人を呼び、ズブ濡れの二人にインスタントコーヒーを、ステンレスのマグカップに入れてくれた。
 
 「濡れてるから悪いわ」
 
 濡れた白いブラウスが張り付いて敏子の体のラインが良く分かった、スマートとはいえないが相手に優し女性と思わせる、見ていて気持ちの良い容だ。ブラウスの下にはHanes のTシャツを着て、スリムなブルージーンズに赤いコンバースを履いていた。
 
 「うちに来るやつはみんなびしょ濡れだから、気にしなくて平気平気」
 
 ショップのオーナーは敏子にバスタオルを渡した。
 
 康之は、素足に紺色のデッキシューズ、スリムなホワイトジーンズ、BVDのTシャツ、ブルーのウインドブレーカーを着て、髪の毛以外はびしょ濡れだった。
 
 「こんな板に乗ってるんだ、カッコ良かったわね、さっきの人達」
 
 そう言いながらショートボードを見ている敏子にオーナーは
 
 「何処で見たの?」 と聞いた。
 
 返事に困っている敏子の変わりに
 
 「稲村です」 と康之が答えた。
 
 「稲村が上がったのは久し振りだからね、今日はうちのプロも入ってるよ、このマークの板がいなかった」
 
 オーナーが指差した写真には、マークが良く見えるようにボードを差し出す日に焼けた男が映っていた、康之が茅ヶ崎で友だちの板を借りて波乗りをやっているとき、そのマークはよく目にした、その板がこのショップのオリジナルだと始めて知った。
 
 「あの単車で来たの」
イメージ 1
 
 オーナーは歩道橋の下に止めてある、銀色のタンクの下に4気筒350cc、左右に2本づつマフラーがあるバイクを指差した。
 
 「ハイそうです」
 
 「じゃあ、ライダーだ、サーファーと一緒だ、乗るのが板かバイクかの違いはあるけどな」
 
 オーナーはカセットデッキのプレイボタンを押した、DIATONEのスピーカーから哀愁のあるギターのアルペジオに続いてドン・ヘンリーのハスキーな声が流れてきた。
     
       ♪ On a dark desert high way, Coll wind in my hair......
 
 
 
 
つづく