この物語はフィクションです。 実在の人物、団体などには一切関係ありません、画像はイメージです。
盆が過ぎたその日、康之は夕立の中に傘を差さずに歩く敏子を見た、友だちのCB550の後ろに乗っていた康之は敏子に声を掛けずに通り過ぎた。
髪型をショートにして濡れた服が張り付いた体は細く、思いのほか背が高く見えた、ハイヒールを履いていたのかもしれないと康之は考えていた。
次の日、五郎がバイクで事故をしたと電話があった、交差点で濡れたマンホールの鉄蓋に前輪を捕られ、転んで足を折ったと電話の友人は言った。
入院した病院は康之と同じだった。
康之は自転車で病院に向かった、病室に入ると五郎は左足をワイヤーで引っぱられ、体が動かないように革で出来たベルトでベットに縛り付けられていた。
「ヨゥ、どうよ」 と言う康之に
「痛えよ」 と一言だけ言った。
康之は廊下に出て敏子を探したが見当たらず、ナースキャップに線が二本入った年配の看護婦に敏子のことを聞いた。
敏子は7月末から来なくなった、急にいなくなったので病院でも困っていると言った。
敏子と同じ寮に住む看護婦は部屋はそのままで姿が見えないと言っていた。
彼岸過ぎのまだ暑い日、七里ヶ浜で夕焼けの富士山を康之は見ていた、仲間とバイクで城ヶ島に行った帰りに、一台で大仏に寄り江ノ島へとやって来た、寂しい気持ちを抱いたまま鵠沼を通るとき、敏子と寄ったサーフショップに一瞥を投げた。

写真提供、(株)スターボード 酒井いちろう様
http://starb.cool.ne.jp/
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ショップの中では相変わらず日に焼けたオーナーが、サーフボードの修理をしていた、他に客の姿は無かった。
木枯らしが吹く寒い朝、康之は自転車に乗って高校に向かっていた、交差点を通り過ぎるとき右から交差する赤信号に、メッキのマフラー、2サイクル2気筒のバイクが止まっていた。
2サイクル2気筒のバイクがマフラーから煙を吐きながら、康之の横を通り過ぎて止まった。 康之がバイクを振り向きながら通ったとき、白いフルフェイスの中から
「康之く~ん」 と声がした。
康之の心が踊った!
何を話して良いか考える康之に向かって
「私、ライダーになったの」
悪戯をした時の子供のような笑顔で言った。
「波乗りもはじめたの、ほんとに沖に出るのは辛いわね、特に波のある日 はね」
「波乗りもはじめたの、ほんとに沖に出るのは辛いわね、特に波のある日 はね」
「うん」
「私ね、これから風になる」
2サイクル2気筒のバイクは走り出した、全力で追う康之は通り過ぎた風に追いつくことは出来なかった。
エンディング
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