BGM
 
 
 
 菜の花の道

 お気に入りの海岸から、岬を二つ過ぎた街の病院に仕事を見つけ、その街のアパートに引越したのは、山の紅葉がすっかり赤くなる頃だった、引越してすぐウエットスーツを買い、借りた板で波乗りを始めた。
 
 テイクオフから横に行ける様になったとき、自分用の板を注文した、ファンボードと呼ばれるタイプの板で、彼女の技量、癖をよく知る真面目なシェーパーが作った板はとても乗りやすかった、テイクオフが楽に出来、自分が
上達したかのようだった。
 
 休みの日は、波が無ければオートバイによく乗った、信号の殆ど無い海岸沿いの道はオートバイで走るのにピッタリで、半島の先端の波を見に行ったり、半島中心の山岳地帯を貫くワインディングや、螺旋状のループ橋
走る場所はいくらでも有り飽きなかった。
 
 最初に勤めた病院の医者との恋に傷つき、次に勤めた街でも愛に裏切られ、嫌気が差している頃オートバイと出合った、風を感じる乗り物「オートバイ」に乗るため免許を取り、新車の2サイクル2気筒のヤマハを手に入れ、新しい地図を広げ走り出した、そして、その海に出合った、お気に入りの海岸の近くに暮らしてから、彼女の心を波乗りとオートバイが癒してくれた。
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 彼は、高校が自由登校になった暖かい日、仲間とバイクで半島東側を海沿いに走り、半島の先端を目指していた、先端に近い河に沿って桜や菜の花が咲いている県道で、2サイクル2気筒のヤマハが対向車線を走って来た、グループの先頭が、すれ違うヤマハにピースサインを贈った、黄色いヘルメットを被ったヤマハのライダーもピースサインを返した、一番後ろを黒のCB550で走っていた彼も、左手でピースサインをしてヤマハをバックミラーに映した。
 
 彼女が半島の道を充分に楽しみアパートへ帰るとき、白い砂浜の端にある神社前の駐車場に、菜の花の道でピースサインをしたグループのバイクが止まっていた、KAWASAKI、YAMAHA、HONDA、3気筒、2気筒、4気筒、一番手前に置いてある黒い4気筒は陽を浴びて濃いブルーにも見えた、砂浜に大きな声ではしゃぐ少年達が見えた。
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 春の訪れが早い半島は水仙、桜、菜の花などが早い時期から咲き、休日などは海岸沿いの国道が渋滞することもあるが、平日は車が少なく太陽が有る時間はバイクで走っても寒くない、暑い夏より気持ちがいい。
 
 半島に有る病院にはツーリングに来たバイク乗りが、怪我をして運びこまれる事がよくあった。
 
 
つづく
 
 この物語は妄想です、実在の人物、団体などには一切関係ありません。
画像はイメージです。