BGM
 
 
彼のCB550
 
 彼女が暮らし始めて3回目の春、陽気がいい日曜日、意識の無いライダーを救急車が運んできた。
 
  彼はCB550で大きな峠を越え日本一の山を見て、半島東側の海沿いのコースで帰る日帰りのツーリングに来ていた。
 
 半島の付根から先端まで貫く山間の国道は、観光施設が多く観光バスが沢山走っていて、バスを先頭に数台の車が金魚の糞のように連なる。
 彼は、道幅を使ってごぼう抜きに、対向車を気にしながら強引に、何度も車列を追い越した。

 タンクの下のエンジンは 『4気筒、OHCエンジン……特許申請中のカム軸受加工方式を採用することにより、軽量化と小型化に成功した並列4気筒、OHCの高性能エンジンです。安全な追い越し加速と十分な余裕馬力。加えて4サイクル特有の巾広いトルク特性をフルに引き出す5段ミッションを装備しています。』 メーカーがカタログに書いていた通りで、50cc排気量が多くトルクが上がった550のエンジンは更に頼もしく 『軽くコンパクトな車体は、大型クラスとは思えない取り扱い易さで市街地走行から高速走行まで安定した操縦性を示します』 これもカタログ通りで山間の国道で右に、左に、浅く、深く曲るカーブを軽快にこなした。
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 円を二週回る螺旋状のループ橋を下り、川沿いの道で海岸線を目指した 海岸線に出る信号機のある交差点は嫌い、東側にある一時停止のT字路に出た。

 左にウィンカーを出し一時停止をしたとき、右から観光バスが来た。
 
 「行けるな」
 
 アクセルを煽り高い回転でクラッチをミートさせようとした時、観光バスはパッシングと威嚇のホーンを鳴らし彼の550の前を左へ通り過ぎた。 
 
 海岸線に出た彼の550は観光バスの後ろを走ることになった、黄色いセンターラインが続く道、黒い排気ガス、対向車は少ないが見渡せる直線が少ない道で無理な追い越しも出来ず、彼は明らかにイライラしていた、観光バスの尻を見ることに飽きた彼は、、ウィンカーを右に出し、ギヤを一段落としアクセルを一捻り煽った。
 
 対向車をやり過ごし、地図の上で知っていた海沿いの旧道へと曲った、初めて通る道の向こう側に、入り江のような海で波乗りをしているのが見えた、彼は黒いCB550を停め波乗りを暫く見ていた。 
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 その海で波乗りが出来るのを初めて知った。
 
 
 
つづく
 
 この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。