BGM
 
 
 思い出が騒ぎ出す

 一週間後、彼は白いセダンのルーフにロングボードを積んで、ツーリングのとき見つけたポイントへ向かった、クーペの事故現場に花束や線香が無かったので、安心して通り過ぎた。
 
 海水浴客用の駐車場は有料だがゲートは開いていた、勝手に車を置ても誰も集金に来ない。
 
 近くの万屋に駐車料金を払いに行くように書いた看板が立っていて、払いに行っても万屋に人影は無く、メモに車のナンバーを書いて料金を入れる箱があるだけだった。
 
 道を挟んで駐車場の反対側にある小屋の前に、白と金色の線で縁取られたペナント形の黒いラインが入った、緑色タンクのCB550が停まっていた、此処にも自分と同じバイクに乗る者が居るのが彼は嬉しかった。
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 沖の低気圧からのうねりが入り、引き潮のポイントには膝の高さのメローな波が立っていて、沖のリーフから割れる波の少し先に、波待ちをしているサーファーが一人見えた。
 
 ストレッチをしてウエットスーツに着替え、右足にリーシュを繋げ初めてのポイントを目指して、彼はパドルを始めた、肩や腕がかったるくなる頃ポイントに着いた、ポイントに着くなり良いうねりが入った、板の向きを変えパドルを入れてレギュラーにテイクオフ、軽くアップスンを入れ、浜とポイントの真ん中辺りの波が消える場所まで乗った。
 先に居たサーファーは彼と反対のグーフィーの波に乗った、日に焼けたサーファーは女性だった。
 
 彼と彼女は30mあるリーフの向こうと此方で、うねりの方向を向き波待ちをした、セットが入るたび彼はレギュラーに、彼女はグーフィーにテイクオフを繰り返した。 
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 潮の満ち干に合わせて出る波は長く続かない、30分すると乗り難くなり、その20分後に波は割れなくなった。
 
 彼が浜に戻る彼女に話し掛けた
 
 「波なくなっちゃいましたね、地元の方ですか」
 
 「私はここ以外で波乗りをやったことはないわ」
 
 彼女は彼の声に、彼は彼女の声に聞き覚えがあった、彼女と彼は互いの顔を見つめ、思い出が騒ぎ出した。
 
 こんな偶然が信じられなかった、彼女は彼の心に三年前から住み続ける女性で、あの日から意識せずに過ごした時は無い。
 
 
 
 
つづく
 
 この物語は妄想です。 実在の人物、団体などには一切関係ありません。画像はイメージです。