このお話は妄想だよ。
 
 
 沖野は、赤いオートバイのナンバープレートを見た、さっき見た番号と同じだった、ライダーは女性だ、赤いヘルメットから肩まであるウェーブの掛かった黒髪が出ていた。
 
 赤いフルフェイスに濃い色のシールドのせいで顔は分からなかったが、革のワンピースのライダースーツのシルエットは、明らかに女の線だった。
 
 沖野はヘルメットを右手に持ったまま、そのライダーをじっと見ていた。
 
 赤いフルフェイスを脱ぐと、色白の若い盛りを過ぎてはいるが、可愛らしい顔が現れた。
 
 沖野は得した気分になった、ジャケットの右ポケットからスペアミントのチューインガムを取り出し、丁寧に包み紙をはがしガムを口の中に入れた。
 
 可愛らしいライダーは、空を見上げるように顔を上げ、髪を手櫛で何度か額から後ろに撫で、赤いフルフェイスを被り直すと、エンジンを掛けたままのオートバイに跨り、国道に出て行った。
 
 沖野は慌ててヘルメットを被り、グラブはスピードメーターとタコメーターの間に挟んだまま、四気筒のエンジンをセルモーターでかけ、赤いフルフェイスを追いかけた。
 
 赤いフルフェイスと沖野の間に三台のセダンがいた、国道は暫く脇道が無い、赤いフルフェイスを視界に捕らえたまま走り続けた、目的の海岸を通り過ぎても沖野は追い続けた。
 
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