四気筒のオートバイをガレージから押し出し、ガソリンコックをONに捻り、チョークを閉め、力いっぱいキックペダルを踏み下ろす、四回踏み下ろしてからイグニッションスイッチをONに回し、軽くアクセルを開けながら力いっぱいキックペダルを踏み下ろすと、勢い良くエンジンはかかった。
 
 アイドリングが安定するまで、徐々にチョークを開け、アクセルを捻り、二千回転をキープする、エンジンが温まると千四百辺りでアイドリングは安定した。
 
 国産の革で出来たライダーパンツと薄手のシングルジャケットを身に着け、顎紐のDリングを締め、夏用のグラブに指を通し、オートバイに跨ると、キルスイッチをONに回し、セルモーターで四気筒のエンジンをかけた。
 ブーツのベルクロを締めなおすと、一速にギヤを入れ、後方を確認して、沖野は約束の場所へと走り出した。
 

 篭坂峠は霧に包まれていた、天気の良くなる日の早朝は霧がかかることが多い、走りなれた峠道だが沖野は、頂上手前のきつい左カーブは好きになれないカーブだった、若い頃サイドスタンドが引っ掛り転倒しそうになった事が、トラウマになっていた。
 
 篭坂を下り正面に湖が見える、T字型の交差点を左に曲り、その先のファミリーレストラン前の駐車場が、待ち合わせ場所だった。
 
 良い具合に霧のかかった湖は幻想的だった、エレキモーターの音が霧の中から聞こえてくる、ラージマウスバス狙いのアングラーがポイントを目指しているんだろう、岸際でランカーがモーニングライズを繰り返していた。
 
 約束の時間はまだ先だ、沖野は霧が晴れはじめた山中湖を時計回りに一周しようと走り出した、長池を走るときバックミラーに富士山が映った。
 
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 平野で富士山の写真を撮り、時計を見ると、丁度良い時間だなと思った、更に湖を半周して、篭坂からのT字路が見えた。
 
 篭坂からの交差点を左に曲る赤いオートバイが見えた、沖野は信号が青になるとフルスロットルで追いかけた、約束の駐車場の手前で追いつき、右に並んだ。
 
 
つづく