風穴の交差点を右に曲り、西湖に着くと湖畔を左周りに沖野は走った、湖畔の道に信号は無く一時停止のT字路が一つと、道が湖から離れた場所に、曲ると短い上り坂の左ト形の交差点があるだけの、平坦でいくつものカーブが続くオートバイで走るには持って来いの道だ。
左ト形の交差点の向うから、夕焼け空を背に赤いフルフェイスがやって来るのが見えた、佳子からも西日に照らされ、左ウィンカーを点滅させながら走ってくる四気筒が見えた、赤いオートバイと四気筒のオートバイは並んで、短い坂を登った。
二台は並んだまま湖畔を走った、黒く影だけになった富士山の見える場所にオートバイを止め、沖野はコーヒーを沸かした。
「このロケーションなら、ウィスキーがお似合いね」
「ウィスキーを飲んだら帰れなくなるよ」
僅かに明るかった西の空も色を失い、見上げる空に星が輝いていた。
ヘッドライトの光の中で二杯目のコーヒーを飲んだ。
「少しなら持ってる」 沖野は革巻きのスキットルをサイドバックから出した。
「ウィスキーが入ってるの」
「そうウィスキーが入ってる」
佳子はスキットルを受け取ると、キャップを開け鼻を左右に小さく振りながら匂いを嗅いだ。
「バーボンね、いただくわ」
沖野はマグカップを水で濯ぎ、スキットルから注いで佳子に渡した。
沖野はスキットルの口から直接バーボンを飲んだ。
「美味しいわ、なんてバーボンなの」
「EARLY TIMES」
「もう早くないわ」
二つの影は一つになった。
コメントする