続・少年の夏ー7
車のドアが閉まる音が聞こえた、硬い靴底がコンクリートを叩く音が近付いた。
足音の主はチャックの十メーター程左に立って海を見ていた、湿った潮風が髪を揺らした、髪の長い女性だった。
「こんばんは」 チャックは酔いに任せて、大きな声で呼びかけた。
「今夜は穏やかだ、風が弱いから暑苦しいけど、この入り江は昔からいい所だ」
「そうね、良く知ってる、ここの海は毎日見ていたから」 チャックは声で誰だか分かった。
「村上さん?、村上正代さん?」 チャックは立ち上がった。
「そう、昔は村上だったわ」
「あっ、そうか、今は苗字が違うか」
「二次会は終わったのね」
「煙草の煙が酷くて、でかい音のカラオケも苦手だから逃げてきた」
「今夜はそこに寝るつもりなの」
「夜空の下で寝るのは久し振りだ、朝には潮風でベタベタになっちまうだろうな」
「家が海のそばだったから、窓を開けたままで寝ちゃうと、朝起きたら布団が潮だらけだったっけ」
「今は誰も住んでいないんだね、あの家は、あそこだけ昔のままだ、トタンが錆びたけど」
「私がお嫁に行ってすぐに引越したのよ、元々親戚の間借りだったから、両親は今でもこの街に暮らしてる、あの丘の麓で」 正代は西の丘を指差した。
つづく

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