バックミラーに映るライトが、カーブを曲る度に近付いてきた、走り屋の四輪だろうと思った、道志道の昔からの狭いカーブが続く場所に入ると、あきらかに後ろから迫る四輪は速かった、左カーブの手前に広い場所を見つけ、四気筒498ccのオートバイを左に寄せた、短く二度クラクションを鳴らし白い四輪はパスした、その四輪のすぐ後ろにもう一台白いセダンがいた、セダンは短いクラクションを鳴らすと同じようにパスした、 GT-FOUR RCだった排気音からノーマルでは無い事は直ぐに分かった、低くない車高、ロールしない車体、ラリー仕様なのだろう、今では全線アスファルト舗装のこの道も、34年前は砂利道で細く絶好のラリーコースだった、B210で砂利道を飛ばした当時を思い出しながら、最高地点の看板を通り過ぎた。
 
 寒いだろうと長袖にベスト、上着は革ジャンを着込んで汗を掻きながら走り出したが、両国橋を渡る頃には丁度良い格好だった、山伏峠の温度計は17度だった、森の香りを吸い込みながら直線の下りを、ヘッドライトを頼りに山中湖へと誰にも邪魔されず下った、山中湖に近付くと、大学の運動部の連中だろう車の通らない国道を、我がもの顔で広がって歩いていた、酒に酔っているのだろうバイクなど目に入らないらしい、ライダーが気を付けて切り抜けるしかなかった。
 
 三国峠への登りが始まる直線も夏独特の雰囲気が漂っていた、四気筒をゆっくりと走らせ、カーブを登って行くと景色が開ける、右カーブの外側にある広場は満車だった、朝焼けの富士山の写真を狙うカメラマニアだろう、その先も車を置ける路肩は空きが無かった、双眼鏡で星空を見上げる親子がいた。
 
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 バイクを置く場所を探して一度頂上まで走り、頂上でUターンしてススキの茂る路肩にCB500を停めた、半円に続く山中湖畔の灯りの左に、上に伸びるハの字型の灯りの繋がりが見えた、御来光を目当ての富士山登山の灯りの列だ、小さな光が煌きながら動いていた。
 
 アスファルトに横になって星空を見た、昼間の太陽に照らされ熱くなったアスファルトはまだ温かかった、見上げる空にぼんやりと白い帯が北から南へ伸びていた、天の川だ、今夜は天の川を見るためにここまで来た、新月の夜を待っていた、今夜がその日だった。
 
 瞬間の光の糸、はっきりと見える光の流れ、三つの流れ星を見る事が出来た。三十分道路に寝転がっていたが車は一台も通らなかった。三国峠を小山側に下りて、国道246号線に出るまで対向車は無かった、大型の後ろを走り何度も赤信号に止められ、家に帰り着いたのは日付が変わる5分前だった。