スピードメーターとタコメーターの間にある、イグニッションスイッチをオンにすると、右足でキックペダルを外側に蹴り、車体と直角に横になったペダルを土踏まずで軽く押し下げた、エンジンをかける為に最良の位置を探り当てると一気に踏み込んだ、冷え込んだエンジンは何も反応しない、二度三度と蹴ってもかかる気配が無い、四度目も反応は無い、十二月の冷えた夜を走る為に着込んだ体に汗が出そうになる、その次に蹴り降ろしたキックでエンジンが目覚める、車体の左右に水平に延びたマフラーが一吼えすると、軽快にエンジンはアイドリングを始めた、アイドリングが尽きない様にアクセルを調整しながら、エアーシャットバルブを開ける、やがてマフラーから吐き出されていた白い煙は無くなり、出発の準備が出来たと言わんばかりに、624ccバーチカルツインは走りたがる、シフトペダルを踏み下ろし一速ギヤに入れ、後方確認をすると、左手で握ったクラッチレバーを緩やかに放しながら、右手でアクセルを開け、冷え切った夜の国道へ走り出した、冷たい空気をこのエンジンは喜んだ。
街路樹にイルミネーションが煌き、冬の空気は全てを冷やす、こんな夜もお前に乗りたい、走り出した彼の体はすっかり冷えて、指先は感覚が無くなりかけていた、季節を感じる乗り物なんだから、冬のオートバイは寒いほど良い、この寒さは冬にしか無いんだから、冷えた空間に拡がるこの排気音があれば、俺にはクリスマスキャロルは要らない。
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