伊勢原CB

Yahooブログから引っ越しました、「あの頃の未来」伊勢原CBです、Yブログで知り合った方が訪問の際には、メッセージで貴殿のURL等をご連絡いただけますと幸いです。

    小さな作文

     外灯に照らされた橋の上にオートバイを止めた、見上げる空に半分だけ光る月が出ていた、夜空を見上げながら直立二気筒が奏でる、アイドリングの排気音を聞いていた。
    イメージ 1

     吸入、圧縮、爆発、排気を左右のピストンが交互に行い、一分間にクランクシャフトを800回転させる、爆発のたびにエキゾーストから排気ガスが噴出する、そのたびにキャブトン型と呼ばれるマフラーから、小気味良い排気音が吐き出される、その音はまるで心臓の鼓動のようだ、自分の心臓と同調しているかのように感じる、語りかけるような排気音に一体感を感じる、その音に、ある者は憧れ、ある者は惹きつけられ、ある者は忘れることが出来ず、このオートバイを手に入れる。

     右手で捻るアクセルグリップで、アクセルワイヤーを引き、キャブレターのスロットルバルブを開く、スロットルバルブにセットされたジェットニードルは引き上げられ、ベンチュリを勢いよく流れる空気が作る不圧によって、ニードルジェットからチャンバーのガソリンが噴出す、噴出したガソリンは、ベンチュリを通る空気と混ざり混合気になる、混合気は、ピストンが下降したシリンダー内へと、開いた吸入バルブとシリンダーヘッドの隙間から吸い込まれる、下死点に達したピストンは上昇し混合気を圧縮する、馬力を出すのに丁度良いタイミングで、コンタクトポイントが開き、点火コイルの一次コイル電流を遮断する、一次コイルに流れていた電流が止まると、コアは電磁石ではなくなりコア内部の磁束はなくなる、コア内部の磁束が急になくなると、同じコアに巻かれている2次コイルには、電磁誘導により高電圧が発生する、二次コイルで発生した高電圧により、スパークプラグのギャップ間に火花が飛び、シリンダー内の圧縮混合気は爆発する、その爆発で押し下げられるピストンの上下運動が、コンロッドを介してクランクシャフトを回す、クランクシャフトの回転運動は、ミッションでオートバイを走らせるのに適切な回転運動に変えられる、ミッションドライブシャフトはドライブスプロケットを回し、チェーンで繋がった後輪のドリブンスプロケットを回しオートバイは前方に進む、一連の動きに関わる部品のどれかに不具合が起きると、オートバイは不調になる。

     右手のアクセルで、思い通りにオートバイを走らせる、全く快調に走るシートの上は何より気持ち良い。

    おわり

     右に野球場の照明が煌々と輝き、左には濃いグレーの空の下に、山並みが黒々とシルエットになって、一番高い頂の上に宵の明星が一際明るく輝いていた、本格的な夜になる少し前の県道を、直立二気筒624ccのエンジンを積んだオートバイで北へ走る、オレンジ色のナトリウム灯に照らされたS字カーブを曲がると、県道は小さな川を跨ぐ、その先の集落を抜けると、連続して現れるカーブは街灯に照らされ、その光はガソリンタンクの上を後方へ流れた、右に左に気持ちの良い速度でカーブをこなす、右手でコントロールするアクセルに反応して、路面と水平に延びるマフラーが吐き出す排気音は、このオートバイの最大の魅力だ、上り坂のカーブをアクセルいっぱいに開け、走り抜ける排気音は魅力的だ、だがシートの上では聞こえないのが一番残念だ。その先の峠は街灯が無い、峠の頂上まではヘッドライトが照らし出す範囲だけが全てだ、カーブで視線を向ける場所を、ヘッドライトの明かりが追いかけ、路面の情報は遅れて視覚に入る、何度も走ったことが有る峠道だが緊張する、峠を登り切るとダム湖の渕を走る、気温が下がりジャケットの隙から入る風が冷たくなった。
    イメージ 1


    好評だったので?調子に乗って今夜も

    「ねぇ、前からばかりじゃなくて、たまには後ろから入れてよ」

    「君にせがまれちゃしょうがない、後ろから入れるよ」

    「入ったわね、いい、しめるわよ」

    車庫に車が納まるのを確認すると、彼女はシャッターを降ろした。


    おまけ

    アナタ、早く起きてよ、睡眠薬を飲む時間よ。

    おわり


    ヨッパライの小噺だから、怒っちゃイヤよ


    「えっ、したこと無いの」妙齢の女は若い男の顔を見た。

    「やったこと無いんです」

    「それじゃぁ教えてあげるから、そこに入りましょ」

     二人が乗ったセダンは電飾看板に誘われるように、左に曲がった。

    「ここに入れるのよ」

    「この穴だね、緊張しちゃうなぁ、上手く入るかな」

    「ほら、ぐっと奥まで入れて」

    「入ったよ、出していいんだよね」

    「最後はこぼさないように気を付けてよ」

    「もういっぱいかな、まだ入るのかな」若い男は穴を覗き込んだ

    「良い経験になったよ、これからはもう大丈夫、一人で出来るよ」

     二人の乗ったセダンはセルフスタンドを出て行った。

    おわり


    ソフトクリームは恋の味ー最終回
     
     
     
     義昭はバイク屋でヘルメットを買い、箱ごとシートに縛り付けた、白糸の滝には四時に着いた。
     
     「今日はやっぱりバニラがいいな」
     
     「ホントに来てくれたのね、何だかドキドキするわ」少女がソフトクリームを差し出しながら言った。
     
     「約束だからね、ヘルメットも持って来たよ」
     
     「本当にオートバイに乗せてくれるのね」
     
     「バイトが終わるまで待ってるよ、駐車場にバイクは置いてあるから、そこで待ってる」
     
     繁盛時を過ぎ賑わいの消えた観光地の売店は店じまいの準備を始めていた、ゴミを片付ける年配の女性、売れ残りの商品を片付ける若いアルバイト、やがてそれぞれの店は扉を閉めた。
     
     CB250の脇で待ってる義昭に向かって少女が歩いてきた。
     
     「このヘルメットなんだけど」
     
     「少し大きいみたい」少女はヘルメットを被って言った。
     
     「大きかったか、サイズが分からなかったから」
     
     「でも、大丈夫よこれで」
     
     「家はここから近いの」
     
     「家は富士宮なのバスで通ってるの」
     
     「そうか帰りは送るよ、少し走ろう」
     
     「嬉しいわオートバイは初めてなの、少し怖いな」
     
     少女を後ろに乗せ義昭は走り出した、CB250に二人乗りで朝霧高原を走り、幸せな夕暮れ時を過ごした。
     
     夏休みが終わり二人は文通を始めた、義昭は月曜に手紙を出し、少女は木曜日にポストに入れた。
     
     日曜にはCB250で富士宮へ義昭は走った、冬の寒い日には裾野から富士宮へ入った。
     
     高校を卒業して、義昭が彼女を迎えに行く乗り物はクーペになり、CB250は物置きの中だった。
     
     三十五年の月日が過ぎ、ソフトクリームを作っていた少女も今は三人の娘のお母さんだ。
     
     そして、義昭がエンジンをかけたオートバイの音を聞きながら夕飯を作っている。
     
     CB250の排気音の中に夕焼けの朝霧高原が浮かんだ、二人乗りで走ったあの夏が。
     
     
    終わり
     

    このページのトップヘ