少年の夏ー5

会社帰りにエレキギターのゲージを買った、押入れから引っ張り出したケースを開けると昔のままの臭いがした、ゲージを張り久し振りに弾くエレキギターは思う音が出なかった、それでも満足だった、そんな気持になったのは何年も無かったことだ。
目をやることの無かったバイク屋へ目が向くようになり、そのオートバイを見つけた。
縦に二本並んだ懐かしい形のマフラーが目に入った、次の日もそのオートバイを目が探した、その次の日バイク屋の前に車を止め暫く眺めた、その次の日バイク屋へ寄った。
表示された価格は今の自分には簡単に払える額だった、少年の頃これを手に入れる為にアルバイトをしたことを思い出すと、今の自分は裕福に思えた。
「これはエンジンは掛かるの」
「調子は良いですよ、キャブの中身は新品だから、タイヤだって新品、エンジンも上は開けていろいろ交換してあるんですよ、このバイクは乗り易いですよ」
「乗り易さは良く知ってますよ、エンジンかけてみてもらえますか」
「いいですよ」
バイク屋の主人は店の奥へ鍵を取りに行った。

つづく
